イギリス・リバプール出身の29歳の慈善家「べサニー ウィリアムズ(BETHANY WILLIAMS)」がロンドン・メンズ・コレクション最終日にプレゼンテーションを開催した。彼女は今年2月に第2回「英国デザイン クイーン エリザベスII アワード(Queen Elizabeth II Award)」を受賞したほか、本年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」のファイナリストにも名を連ねている注目株だ。各審査員から高く評価されているのは、ウィリアムズがサステナブルな生産や社会的弱者へのエンパワーメント、犯罪者の社会復帰の支援など慈善活動に取り組んでいる点。使用する生地は全てイギリス産のリサイクル素材やオーガニック素材だ。取引しているボタン製造会社は収益の一部を植樹活動に分配し、ブランドの収益の30%をフードバンクに寄付するなど徹底している。
“バタフライ・カフェ”と題した2020年春夏コレクションは、ホームレスや恵まれない人々を支援する慈善団体「スパイアーズ(Spires)」が運営する同名のカフェから着想を得た。同カフェは社会的に孤立した弱い立場の女性や、性的被害を受けた経験のある女性たちに長期的な支援と開放的な空間を提供する目的で設立された。毎週開催されるセッションでは、食事会を通して女性たちが交流したり、工芸品や編み物、ジェエリー制作のスキルを学ぶセミナーを開催したり、女性たちが社会で美しく羽ばたけるような支援を目的としている。「発展的な活動に感動した」というウィリアムズは、カフェの活動から得たインスピレーションをコレクションへと反映させた。会場は庭園美術館内の中庭。彼女のコレクションはストリートウエアを基盤としており、今シーズンはウィンドブレーカーやワークパンツ、彼女の母親が制作するハンドニットのセーターにイラストレーターのジョージア・キアリオン(Giorgia Chiarion)のプリント柄を描いた。なお同コレクションの収益の20%は「スパイアーズ」へと寄付される。
ウィリアムズの両親も慈善活動や環境問題に対して積極的に活動していたそうで、ブランドの哲学や彼女自身のパーソナリティーが慈善家として形成されたのは自然な流れだった。ウィリアムズは「社会的問題と環境問題は密接に関連していると考えている。これらの問題の関連性を調査していけば、サステイナブルを実現するファッションの循環型のシステムを見つけることができるはず」と強い思いを語った。
イギリスには慈善活動と環境問題に対して熱心に取り組むブランドが「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」や「ヴィヴィアン ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」など、多々ある。昨今はLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)やケリング(KERIGN)もその姿勢を示すために生産背景を積極的に開示しているが、創始者自身が率いる独立系ブランドの方が透明性が高いと感じられるし(少なくともイメージだけは)、よりダイレクトに彼らの想いがコレクションに反映されているように見える。アップサイクルに注力するフランスのウィメンズブランド「マリーン セル(MARINE SERRE)」など、20代の若手女性デザイナーは新世代の象徴的な存在といえるだろう。彼女らの問題提起やムーブメントには、引き続き注目したい。