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近年の大学の進出もあり、若者のにぎわいとノスタルジックな下町の空気が混じり合う街、東京・北千住。駅前にはルミネやマルイがあるものの、大型商業施設以外のアパレルショップに関しては不毛地帯だったが、地域初のハイエンドセレクトショップをうたう「アマノジャク(Amanojak.)」が8月オープンした。

駅から西に延びる商店街を過ぎると、昔ながらの下町が顔を出す。2階建て一軒家の店舗は見落としそうなほど住宅街に溶け込んでいるが、店内は英「トム・ディクソン(TOM DIXON)」のインテリアや牛島大輔のアート作品が並ぶモダンな雰囲気だ。16坪とコンパクトながら「マルニ(MARNI)」「エムエム 6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA)」などのメンズ・ウィメンズをそろえる本格派で、バーカウンターを模したレジでは、靴磨きのサービスを受けながらゆったりとくつろぐことができる。

創業メンバーは20代後半~30代前半の男性3人で、元々トラディショナルなインポートアイテムを扱う老舗セレクトショップで働いていた仲間同士。「誰でも気軽に入れて親しみがわく、地元の服好きのハブを作っていきたい」と語る大津寿成「アマノジャク」共同経営者に、北千住に根を下ろした理由や今後の店舗運営について聞いた。

大津寿成「アマノジャク」共同経営者(以下、大津):同じ店で働いてきた中で、「ブランドの本質的な価値を伝えられる翻訳者になりたい」という3人の共感があり、「自分たちが本当に好きで、語れる服だけを売る店を作ろう」という話でまとまった。昨年9月ごろから3人共同のインスタアカウントで好きなコーディネートを発信し始め、フォロワーが1000人ほどに達したところで店を出す決断をした。商品の仕入れは、ブランドとの信頼関係構築からゼロベースで行ったため苦労した。店のコンセプトを真摯に説明することで仕入れを取り付けられたのは、大きな自信になった。パンツブランドの「ニート(NEAT)」など、都内でも1、2店しか取り扱いのないブランドもある。

フォロワー1000人という数字は頼りないとも感じるが……。

一般的にはそうかもしれない。だが開店初日から70~80人も来てくれた。「東京の北側にこんな店ができるのを待ちわびていた」という地元のお客さまや、地方では神戸や金沢からも。僕たちのような小規模なショップは、熱心なファンを作ることでファッションチェーンやECと差別化しなければ生き残れない。だから何万というファンを相手にするインフルエンサーマーケティングのような手法は必要と考えておらず、むしろ狭く深く、お客さまといかに距離を近づけるかというスタンスで店舗運営を行っていく。

都心を離れたファッションと縁遠い街で、駅から徒歩10分という“天邪鬼”な立地ならば、目的意識を持って来てくれるお客さまを大切にできるからだ。ハイエンドショップ特有の尖った感じや入りづらさを下町特有の雰囲気が緩和してくれるとも考えた。駅前の大衆居酒屋が、理想と重なるところがある。古い街並みに溶け込んで愛され、地元の服好きが気軽に集まってくる場所になれたらいいと思っている。そのためにも今後はインスタのファンだけでなく、地元住民にも地道に発信していくことが必要だ。最近は近隣住宅にチラシをポストインしつつあいさつまわりを始めた。ハイエンドショップとチラシは親和性がないように思われるが、珍しくて逆に良いのかもしれない。成果は出ていて、来店客も開店当初より1割程度増えた。

お客さまの滞在時間が2時間程度と長いことだ。フラットな商品配置が効いているのかもしれない。高いブランドだからといって奥まった場所に置いたり、ショーケースに入れたりせず、全て同じ種類の什器に掛けている。「店に統一感がない」とお客さまから言われることもある(笑)。だがこれは色々なブランドの服を手にとってもらうための仕掛けで、そこに僕たちの接客を掛け合わせることで、興味がなかった分野を開拓していただくきっかけを作る。試着もどんどん勧めるから、必然的に滞在時間が増えるのだろう。客単価は3万~4万円だが、試着を経て「次に来たときはこれを買う」と言い残して帰られるお客さまも多く、単純に数字では測れない部分もある。

ショップが顧客情報を得る方法として一般的なのはレジカウンターでのアンケートだが、僕たちは名前や職業といったお客さまの基本情報だけでなく、コミュニケーションの中で得た細かな情報を“カルテ”と呼ぶフォーマットに書き込んでいる。「今度は彼女の誕生日を銀座で祝う」と記録したお客さまの再来店時に、ドレッシーなアイテムを提案して購買に結び付くなど成果は出ていて、徐々に店全体の成約率アップにもつながってきた。靴磨きやニットの毛玉取りといった無料で実施しているアフターサービスも、お客さまとの距離を縮めつつ再訪のきっかけになっている。客入りの多いショップやECには真似できないであろう、丁寧で真心を込めた接客が武器になるという実感がわいてきている。

現在は月300万~400万円で、将来的には1000万円まで拡大したい。この街の老舗の商店と同じようにどっしりと構え、「ハイファッションの文化を根付かせる」という気概でトライする。一般的なショップでは「今日いくら売った」というような短期的な成果が語られがちだが、それだけが重要な指標だとは思わない。購入につながらなかったとしても、滞在時間が長ければ居心地の良さを感じてもらえているわけだし、再来店や売り上げアップにつながる投資になる。お客さまの中には、すでに北千住の駅前でお酒を飲み交わす仲になった人もいる。そうした関係を地道に築いていくことが、目先の売り上げよりもよっぽど大事なことだと考えている。

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