ファッション・ウイークを前に、現地では注目のショップが続々オープンしている。今年最も注目を集めた新店の一つがシャンゼリゼ通りに3月に開いたギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE以下、ラファイエット)の新店だろう。オープンから約5カ月が経過し、バカンス期間である8月は観光客が多く集客は上々だったようだが、オープン前に期待されていたほど地元や業界での評判は高くないようだ。コンセプトが魅力的であっても「店内で観光客はたくさん見かけるが、ショッピングバッグを持っている人は少ない」と、競合の百貨店に勤める友人は口にしていた。
しかしラファイエットほど規模は大きくないものの、独自のコンセプトを掲げるショップが注目を集めている。中でも個人的に気になった新店3つを紹介したい。
コレット(COLETTE)跡地に6月にオープンした「サンローラン リヴ・ドロワット(SAINT LAUREN RIVE DROITE)」。ロサンゼルスとパリに2店舗を構える同店は通常店舗とは異なり、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)=クリエイティブ・ディレクターのキュレーションによるアートや音楽、本、限定アイテムなどを豊富にそろえる。コレットの“遺志”を受け継ぐように、おみやげにもぴったりな雑貨も並ぶ。
1階にはシューズコレクションのほかにスケートボードやゲーム機、ブックコーナー、筆記用具などが並ぶ。オープンから数カ月後に開かれた2階は、ウィメンズ・コレクションのフロアだ。地下は通常は立ち入り禁止となっており、映画上映やライブ、クラブなどのイベントのためのスペースとして使用する。筆者が訪れた日は顧客や観光客でにぎわっていた。日本人の販売員がいるためコミュニケーションも安心だ。
フランス語で“常識外れ”を意味する「ランセイン(L’INSANE)」は、多様性をコンセプトに掲げるセレクトショップ。創始者であり、キュレーターを務めるのはシリア生まれギリシャ育ちのリン・ゼイン(Lyne Zein)だ。パリのマランゴーニ学院(L’institut Marangoni)でファッションビジネス・マネジメントを学び、「ヴェトモン(VETEMENTS)」でインターン経験後に同店を立ち上げた。
ターゲットはZ世代とミレニアル、LGBTQIA+といった、既存の価値観にとらわれない新時代の若者だ。「自分自身をさらけ出すことを恐れている人々にとって、平等や寛容を受け入れることはいまだに大きな問題だ。『ランセイン』を訪れて世界観に触れてくれた人々に、洋服のキュレーションを通じて自信と勇敢さを与えられるようなプラットフォームを構築したい」とゼイン。ブランドは「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」「ミュグレー(MUGLER)」「032c」「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」「コットワイラー(COTTWEILER)」「エコーズ ラッタ(ECKHAUS LATTA)」など、新進ブランドが数多く並ぶ。
「ポール&ジョー(PAUL & JOE)」創始者兼クリエイティブ・ディレクターのソフィー・メシャリー(Sophie Mechaly)と、彼女のパートナーであるフェリックス・ベーム(Felix Boehm)が手掛けるセレクトショップ「BDC」が、パリ左岸のサンジェルマン・デ・プレ地区にオープンした。店名はロックバンド、ザ・キュアー(The Cure)の代表曲「Boys Don’t Cry」の頭文字を取って名付けたという。
約60平方メートルの店内は、定期的にコンセプトを替えて刷新するという。6月のオープン時は“ロサンゼルス”をテーマに掲げ、海の絵画やサーフボードがディスプレーされた店内に「パーム エンジェルス(PALM ANGELES)」の商品を多く並べた。現在は“着る芸術”をコンセプトにしたキュレーション。イタリアの建築家チニ・ボエリ(Cini Boeri)やアメリカ人の双子アーティスト、ハース・ブラザーズ(The Haas Brothers)のインテリア、フランス人アーティストのクロード・レベック(Claude Leveque)によるネオンアート作品などを飾る。ブランドは「マルニ(MARNI)」「シエス マルジャン(SIES MARJAN)」「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」「イージー(YEEZY)」「ボーディ(BODE)」などストリートからベーシックまで、世代や毛色の異なるさまざまなブランドを扱う。